スポンサーリンク
2011年まで東京のタクシーに乗っていたのだけど、その頃に書いていたメルマガから転載です。
■ 丸山ワクチン
弦巻通りでおじいちゃんを乗せた。
「小島病院、わかる?」
おじいちゃんは明るい声で言った。
「はい。輝屋から左、まっすぐ坂をのぼり、コンビニを右に曲がってすぐ左
ですね」
「うん、よく知ってるね」
「今から受診ですか?」
「うん。私ね。癌なんだ」
「え、そうなんですか?」
「見えないだろ?」
おじいちゃんは、いひひと笑った。
たしかに、そうは見えない。
「ええ」
「小島病院で丸山ワクチンを打ってもらうんだ」
「あの有名な、丸山ワクチンなんですね」
丸山ワクチンは、丸山千里博士が、結核の治療を目的に研究、創製したも
のだ。博士は、ワクチンを使用している療養所に癌患者が少ないことに注目
し、癌に効くのではないかと考え、癌の治療への応用を試みたのだ。
心臓病の治療薬として試験を行っていたバイアグラがED治療薬となり、
前立腺肥大症として開発されていたプロペシアが育毛効果があるというこ
とが発見されたように、丸山ワクチンも偶然と丸山博士の着眼力と努力に
よって生まれたものなのだ。
「小島院長は丸山先生の弟子なんだよ。私の身体で次々と生まれた癌を全部
消してくれたんだ」
「手術は?」
「いやあ、それがね。手術はしてないよ。丸山ワクチンだけ」
おじいちゃんはまた自慢そうに、いひひ、と笑った。
「それはすごい。小島病院に行けば、丸山ワクチンが手に入るんですか?」
「丸山ワクチンは日本医科大学で買うんだ」
「高いんでしょう?」
「いやあ、そうでもないよ。20個で15000円だ。毎日使うもんじゃ
ないから、安いもんだ。それで生き続けられるんだから」
「それを持って、小島病院に行くんですね」
「そう。ワクチンを打ってもらうんだ」
「お客さんは、丸山ワクチンで治ってしまったんですね」
「私は、そう信じているね」
「実は、私の叔父も丸山ワクチンを使ったのですけど、ダメだったんです。
24年も昔のことです」
「そうか。それは残念でしたね。どんな薬も万人に平等に効くもんじゃない
からね」
丸山ワクチンは叔母が叔父に内緒で買い求めた。
叔父はその効果を信じず、やがて医者はモルヒネで叔父の痛みを抑えると
いうことしかできなくなり、叔父は「殺してくれ」と、僕に手を合わせたの
だった。
癌は不思議だ。
治療をまったく受けずに治した人の話もよく聞く。
叔父もこのお客さんのように、心から丸山ワクチンを信じていたら治って
いたかもしれないなあ。